この空の彼方
やけに政隆が弱気だ。



「灯世殿、くれぐれも芦多をよろしく頼みますぞ。」


「はい。
出来得る限り、力を尽くします。」



だから、そんなに悲しそうな顔をしないでください。



灯世まで悲しくなる。



勝手な話だが、政隆には常にどっしりと構えていて欲しい。



でないと調子が狂う。



「灯世様、そろそろ。」



いのが苛々とした声をかける。



灯世はため息をついた。



「申し訳ありません、政隆様。
慌ただしくって……。」


「いやいや、朝から訪ねてきたわしが無礼でした。
……くれぐれもお気をつけて。」



政隆の優しい、しかしどこか寂しげな笑みが、妙に記憶に残った。



「さようなら…。」



灯世も政隆の後ろ姿に手を振った。



何年、帰って来られないのだろう。



いや、帰ってくることなど、出来ないかもしれない。



何しろ、相手が悪すぎる。



灯世は何も知らず、仕切られた隣で眠っているであろう辰之助のことを考えた。



あの人ともお別れかもしれない。



嫌いだけれど、どこか憎み切れない人。




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