千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
大きな声を出したかと思った千里ヶ崎さんは、突然、バタリと倒れた。ソファーの、曲線を描いた肘掛けに寄りかかる。

「いけない……少しハッスルし過ぎたようだ……。クラクラする……」

「たまには日の光でも浴びないと、体に毒ですよ」

「光なら、今浴びてるよ」

天窓からのじゃありません。

「外に出て、歩けって言ってるんです。なんでも香蘭さんに任せてばかりじゃないですか」

「ふふ、それはそうね。だって香蘭は、私の人形なのだし」

「また、そんな、人権侵害な発言を……」

病的とも言えるくらい白い肌の千里ヶ崎さんは、それはそれは艶然と、微笑んだ。

「なにもかも、本当のことだというのにね」

「……」

一瞬――不覚にも、さっきまでの化け物ケータイの話まで含めて「本当のこと」だと言われたようで、ぞくりとする。

僕は慌てて、手にしている本へ目を落とした。千里ヶ崎さんのせいで、さっきから満足に読み進められない。

そのとき、重たい扉の開く音がした。書庫そのものに扉はなく、ぽっかりとアーチ型の入り口が開いているので、音はよく聞こえる。

「ただいま戻りましたー」

という声も。香蘭さんが帰宅したらしい。
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