千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
ガサガサと、大量のビニール袋を提げて歩く音がし、ひょっこりと香蘭さんが顔を出す。

短い三つ編みのかわいい女の子で、チャイナ服に割烹着という、かなりきてれつな格好をしている。なんでも、「ミシェルさまのお言いつけですので」だそうだ。

ちなみにミシェルというのは、千里ヶ崎さんの名前だ。日本名じゃないどころか、全然似合わない。

「あらあ」

と、香蘭さんは一番、僕を見て、にっこり微笑んだ。千里ヶ崎さんとは真逆の、たんぽぽが咲いたような笑みだ。

「皆川さま、いらっしゃっていたのですね。どうもこんにちはー」

「どうも」

お互いに、軽く会釈した。

もう数ヵ月の付き合いだけども、香蘭さんは僕に『さま』をつける。こればかりは慣れなくて、こそばゆい。

「香蘭」

と、厳しい声で千里ヶ崎さんが言った。

「早くその提げているものを片付けなさい。雑音のせいで、私の想像が掻き乱されてしまうのだよ?」

「あらあ、申し訳ありません。すぐに」

仕方がないとはいえ、またガサガサと音を立てて香蘭さんが出ていく。

千里ヶ崎さんの眉間には、不機嫌そ~うな縦じわが浮かんでいた。ただでさえ強烈な印象の美女なので、不機嫌さが際立つ。
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