ペアリングを外して

「小出へ」

 と書かれているところまで読んで、すぐに紙を閉じた。

 読まなくたって、大体の内容は予想がつく。

 俺の頭にはもはや絶望しかない。

 手紙を読もうか、それともやめておこうか。

 迷っていると、俺の携帯からアラーム音が鳴り出す。

 スヌーズ機能を解除していなかったようだ。

「会社、いかねーと……」

 俺は手紙をスーツのポケットに押し込め、そのまま出社の準備に取り掛かった。



 その日一日、俺は昨日残した分まできっちり仕事をこなすことができた。

 仕事を終えたらまっすぐに自宅に帰る。

「もしかしたら部屋に三村がいるかもしれない」

 なんて、ありがちな妄想も抱かなかった。

 頭は働くが、心の中は空っぽ。

 機械のように動いた気がする。

 駅のホームに到着すると、俺はやっとポケットから三村の手紙を取り出した。

 
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