桜の下で ~幕末純愛~
「頭では分かっていても望んでしまうんです。歴史が変わるのを」

震える声で話し出す。

「もし、鎮痛剤が病気の進行を抑えるなら…また飲ませてしまいそうで」

「怖ぇか」

「はい。自分に抑えがきかなそうで…。総司がよくなればこの先も一緒に居られるって…。夢みたいな事、考えちゃうんです。最期まで見届けるって決めた筈なのに、総司がいなくなるのが怖くて堪らないんです。自分が中途半端で情けなくて…悔しくて…」

―抱き締めてぇな。俺の事を考えてる訳じゃねぇのに…―

土方は桜夜に触れそうになる手をグッと抑える。

「情けなかねぇよ。誰しも望む事だ」

土方は行き場のなくなった手で桜夜の胸を指す。

「“そこ”をしっかり繋げとけ」

そこ…胸?…心臓…心?

―心を繋ぐ―

ああ…どうしてこの人はいつも私の欲しい言葉をくれるんだろう。

「土方さんは何なんですかね。いつも私を救ってくれる…」

いつも弱くなりかけた私を引き戻してくれる。

「いつまでも餓鬼のお守りはしてられねぇぞ」

ガキって…。こんな事でウジウジして…確かに子供だ。

「そうですね…。私もいい加減大人にならなきゃ…」

桜夜は立ち上がり、着物をパンと叩く。

「いつもありがとうございます。もう平気です。そろそろ戻りますね」

桜夜が胸元に忍ばせた腕時計を出して時間を見る。

その時、ポトリと何かが落ちた。

「次にここで会う時は笑ってます」

そう言って桜夜は落とした物には気付かずに行ってしまった。

残された土方がそれを拾いあげる。

―匂袋?もう匂いもしねぇのに―

土方は桜夜の消えて行った後を見つめ呟く。

「しれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道」

―俺は迷ってるのか?情けねぇのは俺の方だな―

匂袋を手に空を見上げた。
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