桜の下で ~幕末純愛~
一月二十一日

土佐の坂本龍馬・中岡慎太郎らの画策で薩摩藩・西郷隆盛、長州藩・桂小五郎らにより、犬猿の仲であった薩摩と長州の軍事同盟の密約が成立。

―薩長同盟―

新撰組にとってもこの先を大きく変える密約が成立していた。

桜夜はいつも通り仕事をこなす日々だった。

二月に入った日。

「総司っ。次の非番はいつ?」

巡察前の沖田を見つけ、桜夜が駆け寄る。

「珍しいですね、桜夜がそんな事を聞くなんて」

「そうかな?そうだった?」

沖田はクシャっと桜夜の頭に手をやると

「明後日ですよ」

と言って巡察に出ていった。

明後日かぁ。同じじゃなかったな。

少しシュンとして桜夜は仕事に戻った。

沖田の咳は理由も分からず、小康状態になったが、またいつ再発するのか桜夜は不安だった。

限られた日々。無意識に共に過ごせる時間を探していた。

瞬く間に冬が過ぎ、再び桜が咲き始める。

その頃から沖田の咳が少しづつ回数を増やし始めた。

やっぱり治らないんだよね…。

仕事を終えた桜夜は沖田にあげようと饅頭を持って部屋に戻る。

部屋には灯が付いていなかった。

あれ?居ない?

襖を開けると机に俯せになっている沖田が見えた。

まっ、まさか!

桜夜は慌てて駆け寄り、覗き込むと微かに寝息が聞こえてくる。

はぁ~、よかった。寝ちゃってただけか…。

羽織をそっと沖田に掛けると桜夜は部屋を出た。

庭の桜に登る。

慶応二年かぁ。今年は何が起こったか…覚えてないんだよねぇ。

…少し気楽。こんな事思ったら不謹慎かな。

桜夜が考え込んでいると、コツンと木に石が投げられ我に返る。

下を見ると沖田が立っていた。

「ビックリした。起きたんだ?」

桜夜は木から飛び降り沖田に歩み寄ると、両腕をその体に回し沖田の胸に顔を埋める。

「ええ。羽織、ありがとう。こんな所でどうしたんですか?」

沖田もそれに答え、優しく腕を回す。

「今年起こる事を覚えてないな~って、ね」

「よかったですね」

沖田の返事に驚いて、桜夜は顔を上げる。

「たまにはそういう年もいいでしょう?いつも言えずに辛い思いをしているでしょうから」

静かに微笑む沖田。

「ありがと…やっぱり総司だね」

桜夜は背伸びをして沖田の頬に口づけた。
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