桜の下で ~幕末純愛~
「覚えていないのか?そうか…。元の時代には帰れないものだろうか」

こ、近藤さん…。心配してくれるのは有り難いんですが…今、ひじぃが言ってたじゃない。

「近藤さん、私ではお役に立てないとは思いますが、このまま一緒に居させてもらえませんか?それに私はもう未来へは帰りません」

この時代で生きていく。

真っ直ぐに近藤を見つめた。

「本当にいいんだね?」

近藤はそう言って、小さくため息をついた。

「いや、分かってはいたんだ。桜夜殿ならそう言うだろうと…。しかし、やはり心配でね。どこまで守りきれるか保障ができない」

私には勿体ない位の言葉だね。

すると土方が話し出す。

「てめぇの身はてめぇで守りゃいいんだ」

土方は少し乱暴に桜夜に何かを渡す。

これって…脇差?

「近藤さんの言う通り、この先はどうなるか分からねぇ。時代の行き着く先を知ってても事件が分からねぇなら、てめぇも危険を回避できねぇだろ。いざとなりゃそいつを振り回しでもしとけ。あとは逃げろ。てめぇは無駄に足が速ぇからな」

ひじぃ…これを私の為に?刃物を持つなんて怖い気もするけど、その気持ちは嬉しい。

「では、私からはこれを渡そう」

近藤が小袋を桜夜の前に置いた。

「今まで働いていた分だよ。頑なに断り続けるものだから困ったよ」

お金?しかも袋いっぱいに…。

「下阪すれば女中を雇ってる場合ではないからね。桜夜殿も必要になる時がくるかもしれない。それに我々にもしもの事があっても十分に生きていけるだけはある」

近藤さん…ひじぃ…。

「有難うございます」

桜夜は二人に深々と頭を下げた。

そして下阪前日。桜夜はナミに別れを告げた。

「ナミさん。本当に有難うございました」

「お桜夜ちゃん。…私と一緒に江戸に行かないかい?危険に身を投じる事はないだろうに」

やっぱり皆いい人達だね。

「有り難いんですけど、ごめんなさい。…文、書きます」

この時代に来てから面倒を見てくれたナミとの別れ。

桜夜には辛い別れだった。
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