覚めない微熱だけ、もてあましながら
1、小さな始まり
〈1、小さな始まり〉
「はぁ~……」
溜め息をつく。
デスクの上に両肘をつき、綺麗にネイルアートされたピンクの10本の長い爪をボーッと眺めている。
「何かいいことないかなぁ……」
独り言が漏れる。
――由比麻里の最近の口癖は、
「何かいいことないかなぁ……」
それと最近の癖は、
「はぁ~……」
溜め息をつくことだった。しかも、溜め息を声に出してしまうのだ。溜め息なんて、今までほとんどついたことなかったのに……。
麻里は、大手建設会社に勤める24歳。元々遊ぶことが大好きで、家にいることが少ない。一人暮らしだから、夜遊びをしても家族に何を言われることもない。何時に帰ろうが、どこへ行こうか勝手だ。自由気ままに生きている。友達も多い方だと思う。また、積極的で小悪魔風だから男も寄ってくる。仕草や話し方、目線、香りは爽やかな柑橘系。男をその気にさせる計算テクニック。