だから君に歌を
千夏のすぐ目の前で京平の指がギターの弦を弾く。

京平の歌声が空気に溶けて千夏の鼓膜を振動させる。

沖縄の景色と、兄妹で過ごした思い出を呼び起こす曲に涙が止まらなかった。

「いつの間に練習したの…」

千夏の知る限り京平はギターなんか弾けなかった。

弾き語りを終えた京平が照れ笑いで頭を掻く。

「亜紀ちゃんに教えてもらって、ずっと練習してた」

「千夏のために」

それは間違いなく愛の告白で、
こんな時にこんなタイミングで恥ずかしげもなくそんなことを言える京平は、
千夏には敵わないと思い知らされた。

ずっと京平の大きな愛情に守られていたんだと、
気付かされた。

「京平、」

「ん?」

「ごめんね。好きなの、やめられないかもしれない」

「…別にいいよ、やめなくて」

なんだって生まれて来たのが京平の妹という場所だったんだろう。

神様は意地悪で、
残酷だ。

ありがとう、
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