だから君に歌を
カツン、と杖の音が響く。

「きゃっ」

ふいに腰に腕を回されてバランスを崩した千夏は京平の胸に飛び込む形になった。

手放した杖がコンクリートの上で踊る。

薄い服を隔てただけでお互いの身体が密着した。

バクン、バクン、バクン

明らかに自分のものではない鼓動がせわしなく鳴っていた。

「やべ、緊張してきた…」

京平の吐息が肩にかかってゾクリとする。

「千夏、俺さ、千夏のこと女として見れなかったけどさ、千夏が俺を好きだってことは嬉しかった。嬉しかったんだ」

京平は千夏を抱きしめたまま石段に腰を下ろす。

「だからさ、」

京平の吸い込まれそうな瞳に見つめられて泣きそうなくらい胸がいっぱいになる。

「だから君に歌を贈ります」

星の綺麗な夜だった。
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