俺が大人になった冬
例えば家庭内がいつも穏やかで、夫婦がお互いの存在を尊重し、馴れ合いにならず、多少は気遣いながら、相手を思いやり、子供がいたとしても恋人気分を忘れずにずっと過ごしていけるのならば、きっと男も女も浮気なんてしない。

母親も、彼女と同じように、腹の子の父親に支えて貰わなければならないほどボロボロに傷ついていたのだと。と、そんなふうに思えるようになった。

2月のはじめ。俺は引っ越してきてからはじめて自分から母親に電話をかけることにした。

家を出て約3年。

用件があるときにはメールを利用していたため、会話すること自体が3年ぶりのことで、電話をかけるまでにもの凄く緊張した。

発信ボタンを押しては、やはりやめようかと思い直し、ダイヤル途中で繋がる前に切り。そんなことを何度も繰り返した。
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