俺が大人になった冬
やっと覚悟を決めて電話を繋げたのは、かけることを決めてから20分も経ってからだ。

呼び出し音が鳴るあいだ、緊張しすぎて吐きそうになった。

「もしもし……俺」

俺からの突然の電話に、母親はひたすら驚いていた。

パニックになった母親は何度も何度も本当に俺なのかと確認し、しまいには振り込め詐欺ではないかと言い出す始末で、思わず笑ってしまった。

母親との電話はそんなに長い物ではなかったし、大したことも話さなかったけれど、今までのわだかまりが、スッと溶けたような気がした。

でも、散々反発しておきながら、今更恥ずかしくて「母さん」と呼ぶことはできなかった。


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