俺が大人になった冬

「名前？」

こういう女と付き合うとき、俺はいつも『ゴウ』と名乗っている。

「俺の名前は」

本当の名前は絶対に教えない。

それは俺の中の決めごと。

でも……

「元……向井　元」

俺は、自分でも何故だか分からないまま本当の名前を口にしていた。

「元くん。いい名前ね」

あのとき、まっすぐ俺に向けられた彼女の眼差しは、何故だかとても懐かしいものを見るような切ない表情で。

笑っているのに、どこかとても淋しげで。

俺はそんな女の目から、視線をはずせなかった。

吸い込まれそうな瞳の奥に感じる微かな『影』。

その眼差しの前で、いつものように嘘の名前を告げることは許されないように思えたんだ。