俺が大人になった冬
「平日はあまり人がいないのね。週末だとウインドサーフィンの人がいて、結構にぎやかなのにね」

女はトランクからなにかを取り出そうとしながら、そう言って軽く笑った。

俺がじっと海を眺めていると、女が

「あのね。今日、実はお弁当作ってきたの。元くんが嫌じゃなかったら、海で食べようと思って」

と、不安げな顔で言うので

「マジで!? 手作り!? 食べる! 食べる!」

俺は少し気を遣って、必要以上に大げさに喜んでやった。

ところが、海岸で食べるつもりで来た割に「敷物を持ってこなかった」と言い出し、風が強かったこともあって、結局車の中で弁当を食べることになった。

「ごめんなさい」

女は肩を落として、見るからにガッカリしている。

「気にしなくていいよ! 風がないからかえって食べやすいよ」

『金ずるの女には優しく』が、俺のモットーだ。
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