俺が大人になった冬



──俺の親父は普段は悪い奴ではなかったが、自分が気に入らないことあるとすぐ暴力を振るう男だった。母親はそんな親父の暴力に堪えながら、俺が大人になるまで我慢しようとしてくれていた。

俺が中学3年の2月。

いつものように暴れた親父が、母親を階段から突き落とした。幸いかすり傷程度で済んだけれど、母親は心に大きな傷を負った。

その日は、2人の16年目の結婚記念日だった……

その出来事をキッカケにして、母親は離婚を決意した。どちらと暮らすか自分で決めるように言われた俺は、迷うことなく母親と暮らすことを決めた。

名字は父親の希望や、「あなたは長男だから、向井の血筋から途切れさせるわけにはいかない」という母親の妙な説得で、嫌々ながら父親方の姓の「向井」をそのまま名乗ることになった。

高校入学とほぼ同時に母親と2人の生活が始まり、母親を守ってやれるのは俺しかいないと思っていた。

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