俺が大人になった冬
でも、このとき俺は

彼女の言葉が。

優しい眼差しが。

彼女の手の温もりが。

尖っていた気持ちにスッと入り込んできて、今まで堪えていたものが溢れるように、気付けば涙がこぼれ落ちていた。

「な、なんだこれ……カッコ悪ぃ」

涙を必死に止めようと思えば思うほど、涙は止まることなく溢れてくる。

彼女はなにも言わず、自分の涙に戸惑う俺を優しく抱き寄せてくれた。

俺はそれ以上、自分を飾ることはできなかった。

彼女に抱き締められながら、小さい子供みたいに泣いた。

泣くなんて、いつからしてなかったのだろう。

俺……本当はずっとこうやって泣きたかったのかもしれない。

< 41 / 286 >

この作品をシェア

pagetop