俺が大人になった冬
スキンシップ程度に触れることは、彼女は拒否しない。俺がこうすると、いつもなにも言わずに優しく髪を撫でてくれる。

要するに相変わらず俺を『ガキ扱い』しているということだ。こういう仕草もきっと俺を『男』として見ないようにしているからできるのだろう。

人を好きなるというのは、実に不思議だ……こんなふうに子供扱いされていても、相手が好きな女(ひと)なら、それを嬉しく思ってしまう。 

俺をからかうときに見せるイタズラっぽい表情を見ると、ますます愛おしく思ってしまう。

「なぁ……」

「なに?」

時々、つい『好きだ』と言ってしまいそうになる。でも、それを言ってしまうと彼女は俺の前からいなくなってしまうかもしれないから……

「腹減った」

……それは言わない。

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