きみに守られて
動き出した世界。


近づいてくる美しく輝く、
先ほどまで、
永遠の愛を誓える程に
手を固く繋いでいた女性。

〈女優大島優里〉が
七人の集団の中にいる。

奇跡なのだろうか、
三年間の芸能界生活で
幾度も髪型を変えた彼女は、
約束の髪型をしていた。

然しユリツキはそれよりも、
集団の中に原田正樹がいる事に気付く。

距離が縮まるごとに
彼女たちの楽しい会話が
耳に届くようになる。

 ユリツキは
歩道の隅を目を合わせぬように歩く。
一ファンとして。
礼儀正しい一ファンとして歩く。
(とりあえず、
悟られないように普通に歩こう、
極めて普通に目を合わせず
歩道の隅を、歩くぞ)
ユリツキは三年前の、
数十秒前の、
心の叫びを、
うつむきながら思いだし笑いで
懐かしく思った。

思いながら
左手首の赤い輪ゴムを、
無意識に隠しながら
前へ進んだ。

一歩一歩進む足取りに
誰かが掛け声をかける感じがした。

意識すればするほどに、
一歩一歩と、
熱の元が近づいてる。

すれ違う寸前、
誰かの冗談に笑顔で応える
優里の声が聞こえた。

「そんな人は、お昼ご飯抜きですよ!」


原田正樹が
「本当にその言葉好きだよね」と、
涼しく優しさがある瞳で、
優里を見つめながら笑う。

ユリツキが知る、
心優しき男の声であった。

                      
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