黒王子と銀の姫
「自分も刺客でありながら、同じ時期に送り込まれてきた別の刺客からイリア様をお守りしたんですって。そんなこんなで、ユーリが来るまでは、いつもクリムゾンをそばにおいていらしたわ」

当たり前のように言われて首を傾げた。

自分の命を狙っていた男を、そばに置くというのは、どういう了見なのだろう。

「でも今はユーリが一番のお気に入り。ね、第四皇子のご寵愛を一身に受けているのは、どんな気持ち?」

「ちょ、寵愛だなんて・・・」

美青年から美少年にイリアの寵愛が移ったという、彼女たちの解釈はおかしすぎる。
だが、誤解されたままの方が、都合が良いような気がしないでもない。

いつの間にか、二人の周囲には第四離宮の侍女たちが集まっていた。

城で働く他の者たちと常に距離を置いている「銀の天使」が立ち話をしているのだから、誰もが興味深々だ。

「あの、イリア……様のこと……」

どう思うかと訊ねると、きゃーっと黄色い声があがった。

「ストイックな横顔、引き締まった形のよい唇、憂いと知性を秘めた漆黒の瞳、尊大でありながら優雅な身のこなし、ああ、一度でいいから微笑みかけていただけないかしら!」

意外にも城で働く女たちの間でイリアの人気は絶大だった。
でも、あの無表情な黒王子が微笑むなんて想像もできない。

「残念だけど、イリア様は男性がお好きみたい。ローズ様もずっと実家にお戻りになったままだし……」

「どうなるのかしら?」

「今はそれどころじゃないらしいわ。国王陛下のご病気が……」

声を潜めてひそひそ話し合う侍女たちに囲まれて動けない。

ユーリはひきつった笑みを浮かべたまま動けないでいたが、果てしなく続きそうなおしゃべりを一瞬で止めたのは、廊下の向こうに差した影――この離宮の主、イリア・アルフォンソその人だった。

グノーを背後に従えて颯爽と歩く姿に、その場にいた全員が見とれたが、互いの表情がわかるぐらいまで近づいたころには、娘たちはクモの子を散らしたようにいなくなり、ユーリだけが残された。


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