黒王子と銀の姫
富と権力を掴んだ人間の狂気にぞっとした。

陰謀を巡らせ、弱者を平然と切捨てる。
自らの欲望と快楽をどこまでも追及して飽きることのない、美しい衣装のをまとった化け物ども。

(これが、イリア・アルフォンソが憎んでいたもの)

ユーリに取引を持ちかけた自分もまた腐った連中の一員に成り下がっている。

グノーはベランダから外を見た。

美しく手入れされた王宮の中庭には、今日も薔薇が咲き乱れている。
だが、第四離宮の畑は、荒れ果てているに違いない。

富と権力。
それはグノー・ジュリアンにとって、全く無縁なものだった。

物心ついた時は、年老いた下級貴族の養子になっていた。
養父は極端に無口でグノーのことは何も語ろうとしなかったから、グノーは自分のことを孤児だと思い込んでいた。

養父が亡くなり、第四離宮に連れて来られた。
十歳年下の第四王子は三歳になったばかりで、お前が仕えるべき主だと言われたから、何の疑問もなく仕えてきた。

そのことに、不満があったわけではない。
ただ、自分の本当の立場を知らされた時、世界を手中にした気がしたのだ。

(本当にばかなことをした)

今、グノーの手には、世界ではなく、さっき兵士からもたらされた調査報告書が握られている。


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