幾千の夜を越え
俺が尊を連れて逃げただと?

どういうことだよ?

あの書の最後は…

【降り掛かりし災いを薙払うが為尊は御身を捧げるべく祭壇に…】

上がったはずだ。

「左山…
尊は逃げ出す事が出来なかった」

「ちゃう!神殿に立ち入りんのは尊と右近の二人だけやった。
神殿に入りさえすれば」

「確かに尊は祭壇に上がった!」

祭壇だと?

自分で口に出して初めて
違和感を覚える。

神殿に立ち入れるのは
俺と尊だけだったとしたら
祭壇は誰が設けるんだよ?

俺の書には祭壇に上げたとしか…

神殿の記述さえなかった。

第一、
尊が氏神として奉られていたはず

尊の過ごした社こそが神殿。

「お前の言う神殿って何だよ?」

気付けば
左山の胸ぐらを掴んでいた。

「知らん!神殿の在りかは右近にのみ伝承されとったんや」

その手を左山が掴み。

「祭の装束を身に纏った尊を連れ右近は村を出よった!」

強引に引き剥がした。

「ええか?
俺は…氏子は皆右近を信じとった尊を捧げ村に安息が訪れると…」

引き剥がされた腕が
力なく落ちる。

「彼女は…尊はただの人だった。そんな力は存在しなかった」

全てが抽象的で的確とは言えず。

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