幾千の夜を越え
美術室を出た俺を追って
飛び出した女に腕を掴まれる。

「何か用?」

足を止めることもなく
面倒臭そうに答えた。

「あの…噂って本当なの?」

歩き続ける俺の腕を掴んだままで小走りに付いてくる。

「噂?記憶にねぇな…」

実際今の俺の頭を占めるものは、右近だった…。

「神野茜を左山君と取り合ってるって本当なの?」

呼び方からして茜の知り合いではないのだろう。

寧ろ憎々し気だった。

「さあな?
茜と左山の件に俺は関わりねぇし噂にも興味ねぇから…」

帰りを急ぐのには理由がある。

今朝目覚めた瞬間から
今の今まで右近に囚われていた。

「私…右川君が好き」

目の前に回り込み歩みを止めた。

「悪ぃけど俺…誰にでも媚びる女受付てねぇんだよ」

ブラウスのボタン一つを留め

腕を掴む手を払い歩き出す。

しばらくしてパタパタと走り寄る音共に再び腕を掴まれる。

「これなら良いの?」

スカート丈を
規定まで無理矢理下ろし

ブラウスは
一番上まで留め直している。

トレードマークだった
デカいしゅしゅを取り外し

グロスを手の甲で拭い取って見せ

「私、右川君の好みになるから」

真っ直ぐ見上げていた。

< 82 / 158 >

この作品をシェア

pagetop