ジュエリーボックスの中のあたし
この男はどこまで匂いに敏感なのだろう。


なぜにこんなに鼻が利くんだか。


ユキの唇は触れそうで触れない。


首筋には温度だけが伝わり、そこから熱くなる。おかしくなりそう。


立っているのもやっとで、とにかくユキから離れなければとそれだけを思った。


嘘をついたところでユキにはすぐにばれるんだ。

どっちにしろこの瞳に問い詰められて嘘を突き続けるなんてあたしには出来ない。


そう思い、素直に本当の事を話した。


「うん、えっと帰り際に抱きしめられたかな。」


そう言った瞬間、ユキの目の色が変わったように見え、あたしは慌てて言葉をつなげた。


「あっ、でも本当に一瞬だけだっ」


グイッ


言い終わらないうちにあたしはユキに抱き寄せられた。


「ユキ?」


「こんな隙ばっかりだから客にも変な目で見られるんだよ。」


「橘さん普段はそんなんじゃなくて、ただ今日は彼ちょっと様子がっ」


「ふーん、そいつかばうんだ。」


「ユキ、そうじゃなくて」


「もう黙れよ。」


そう言ったきり、ユキは黙り込んでしまった。


そうしてますますあたしを抱きしめる腕に力を込めた。
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