ジュエリーボックスの中のあたし
どれくらい経っただろう。


あたしはただユキに抱きしめられたまま、彼の体温を感じていた。


眠っているユキに抱きしめられるのと、ユキが起きていて、自分の意志で抱きしめるのとではこんなにも喜びが違う。


ただ、あまりにもこの状態での拘束時間が長く、立っているのが疲れてきた。


ユキはあたしを抱きしめたまま石化してしまったんじゃないかとさえ思えてた。


「あの、ユキ?」


あたしはそっと呼びかけた。


………


返事はない。


「いつまでこうするの?」


さらに呼びかけた。


「…橘とかいうやつのにおいが消えてミリが俺の匂いになるまで。」


「どこの動物の世界よ。ライオンじゃあるまいし。」


「その男がミリを抱きしめたのも気にくわない。」


「……。」


「俺のミリなのに。」


嘘ばっかり。あなたにかかればなんだって、俺のものになるのよ。


コンビニで食べたかったチョコが売り切れていた時だってあなた、俺のチョコなのにって言ってたのあたしは覚えてる。


あなたが言う"俺のもの"例を上げればきりがない。


しょせんはあたしもチョコといっしょ。


あなたのお気に入りの中の一つでしかない。


それでも今はそれがたまらなく嬉しくて、そして寂しくもある。


こりゃ完全に恋の病だな。No.1美里もお手上げです。


そう思ったらなんだか笑いがこみ上げてきた。
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