未来のない優しさ
何か…思い出す事でもあるのか…。

話す健吾の表情は力無くて心細そうに見える。
そんなに、結婚する事にこだわってる姿はあまりにも頑なで、その事自体にすがっているよう…。

「年末…ちゃんと俺の為に白無垢着てくれ」

唇にのせられたその言葉に、どう答えていいのか。

健吾の首にしがみついて
顔を首筋に埋めると、抱きしめてくれる強さが私の心を包み込む。

健吾の吐息は艶っぽくて。
私の鼓動を大きく跳ねさせるには十分。

それでも

「疲れてるんだろ?
寝よう…」

健吾の胸にすっぽり包まれて、規則的に聞こえてくる健吾の心臓の音を感じながら。

どんどん意識は眠りの中へ。

幸せを感じながらも…健吾の気持ちをそのまま受け入れて、白無垢に身を包む未来を想像できない
自分がもどかしかった。

< 280 / 433 >

この作品をシェア

pagetop