未来のない優しさ
「…香りが…」

「ん?」

「望さんの香りを、健吾の体から感じるなんて嫌」

自分でも予想以上に低い声が出て驚いた…。

はっと顔を上げて健吾を見ると、多少驚いて目を見開いてはいるけれど、徐々にあがっていく口角。
くくっと笑い声まで。

「柚ちゃん。かわいいな」

ぽんぽん頭を軽くたたくと、ソファに私を引き上げて膝にのせてくれた。

…こんな時でもそれを嬉しく感じる自分に照れてしまう。

「事務所の望の部屋をみんなで片付けた時に、棚に置いてた香水の瓶が落ちて割れたんだよ」

私の額にデコピンして抱きしめてくれる健吾は震えていた…笑ってる…。

「部屋中甘い香りになって…俺も匂いが移ったんだよ」

わかったか?

と言ってるような瞳を向けられて、少しホッとした。
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