成長する
最初は自分に言われたと気づかなかったが、あまりにまじまじこちらを見てくるので、わかった。

二十代半ばほどの、すらりとした男だった。スーツ姿だが、堅苦しいのが嫌いなのか、襟元で緩められたネクタイが、サラリーマンとは明らかに違った。むしろ見た目は、身なりの綺麗なヤクザ、というイメージである。

美幸は、思わず身構えた。自分は中学校の制服のままである。平日の午前から、ふらふらと歩いている自分を、世間はどう思うだろう。補導、されたりするのだろうか。いやそれとも、こんな非行少女の自分を、どこか怪しげな場所へ誘うつもりだろうか。なにせ鞄すら置いてきたのだ。手ぶらの制服女子中学生――ワケありに見られて当然かもしれない。

不安や焦りに、次の行動をどうしようか悩んだ美幸を、男性は笑った。

「はっは、なんだよ怯えんなよ。俺、別に怪しいヤツじゃないぜ?」

「……自分でそう言う人って、逆に、信用できないんですけど……」

「あー、こりゃ手厳しいこって。楓っち並みに毒舌だわな」

「楓……?」

その名前は、たしか――

「……和幸、さん、ですか……?」

「おっと、正解。自己紹介もしてねえのに、よくわかったな?」

「その、楓さんが、アナタの名前言ってましたから」

「ははーん。そういうお前は、椿の言っていた美幸、だろ?」

「ま、まあ……」

椿というのは、だれだろう。たぶん、あの幼女ではないだろうかと、あたりをつけておく。

美幸がじっと睨み返すと、和幸は真っ向から受けて立った。一瞬たりとも視線を外さず、ニヒルに笑んでくる。

「で、お前さ、ひとりなのか?」

「……はい、まあ……」
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