恋するために生まれた
「ツバサのこと…
 あたしすごく大切に想ってる」

「うん。俺も」

「好き、って
 簡単に言えないくらい」

「俺も簡単に言ったわけじゃない」

「わかってる」

「真剣だから」





胸の中に
熱い想いが込み上げてくる。



さっき病室の表札を見て知った
ツバサの苗字。



“片桐ツバサ”


あたしは
ツバサのことを知るたび
もっとツバサを好きになる。





「退院したらさ、
 どっか行こうぜ」

「…バイクに乗って?」

「ばーか。
 もうバイクは乗らねーよ」


目を合わせて
ふたりで笑った。


あたしの初めての、恋。

初恋は実らない、なんて
誰かに聞いたことあるけど
あたしたちは
心が通じている。




あたしは
世界一の幸せ者かもしれない。




「今日はそれ着て帰れよ」

「でも…おっきすぎない?」

「風邪ひくよりマシだろ」


ぶっきらぼうに言ったけど
心配してくれてるのが
伝わってくる。




「冷える前にもう帰れ」

「え…」

「今日は風呂入ってもう寝ろ。
 また明日来れなくなるだろ?」



本当は
もっと一緒にいたい。

でもツバサの
せいいっぱいの、思いやり。




「わかった。
 また明日来るね」

あたしとツバサは
笑顔で手を振った。
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