恋するために生まれた
それ以来、
ナオは身の上話を少しずつ
聞かせてくれるようになった。



お見合いをしたとき、
父親が末期の癌であったこと。
父親に花嫁姿を見せてやりたかったから結婚したこと。



話を聞くたびナオのことを
好きになっていく自分がいた。


ナオも俺も、
結婚しているというのに―…



「もう少し早く…
 君に出会いたかったな」

「口説いてるの?」

「本心だよ」

「同情なんてごめんだわ」

「そんなんじゃない」



――同情なんかじゃない。

この気持ちは…
口には出してはいけない言葉。

もう俺は
永遠の愛を誓った相手がいる。




「私は、誰のことも愛さないわ」


自嘲気味に、ナオが言った。



「どうしてそんなこと言うんだ」

「だって夫さえ愛せないのよ。
 誰を愛せばいいの」





気がついたら
俺は君を抱きしめていた。
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