無花の桜木
ある日のこと、水汲みに向かった娘は、その傍に座り込んでいる1人の男を見つけた。

様子を窺えば、どうも体調が優れない様子。

娘は思わず声を掛けた。



男の年は娘より数歳上のようで、着ている物はかなりの上物だ。

このような場所に居る人物ではないだろうと疑問を抱いたものの、心優しいその娘は、男を家へと連れ帰った。



男は高熱を出したが、娘の看病のおかげで、3日後には歩き回れるほどまでに回復した。



やがて元気になった男は、娘に深く感謝し、「必ず礼をしに戻る」と言って、村を後にした。



それから数日ほどで、男は再び娘を訪ねてきた。

数人を引き連れて…。



驚く娘とその両親に、男は「先日の礼だ」と言って、高価な品の数々を渡した。


両親は素直に喜んだ。

2人は深々と頭を下げ、礼を述べる。

そんな両親に、男は唐突に娘との縁談の話をもちかけた。



娘は突然のことに驚き動揺しながらも、即座に断ろうと口を開いた。

しかし出した声は、言葉になる前に遮られてしまう。

父親の承諾の言葉によって…。
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