ジュリエットに愛の花束を。

隠し事



「瑞希」


昼休みの廊下。

コロッケパンを2つ手に持ったあたしを、樹の声が止めた。

振り向くと、軽く笑顔を見せながら近寄ってくる樹がいて。

校内で話す機会があまりないだけに、少しだけ緊張する。


「なに?」

「昼、コロッケパン? つぅか、2つ? どんだけ食うんだよ」

「一個は友達の。ジャンケンで負けちゃって。で、どうしたの?」

「いや、たまたま見かけたから。

……なんか校内で瑞希と一緒にいるのって新鮮な感じだな」

「そう?」


自分だってさっきそう思ってたくせに、何でもないような返事しかできない。


あたしって、本当になんか損してる。

アリサさんの言う事もよく分かるし。

女の子に生まれたからには、ニコニコして上手く甘えた方が絶対に特なのに。


……お兄ちゃんめ。

もっと素直で乙女チック全開の子に育ててくれればよかったのに。


またしても八つ当たりをお兄ちゃんにぶつけながら、樹を見上げる。


すると、樹は何も言わずにあたしを見ていて。

真剣な表情に、戸惑う。




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