ジュリエットに愛の花束を。

愛しの人



結局、お兄ちゃんはその翌週、里香さんと真人くんのところに戻っていく事になった。

……あたしが強く背中を押したのが原因なんだけど。


やっぱり、家族がバラバラなのは、おかしいと思うから。

うちはいつも親がいないから。

だから余計にお兄ちゃんにはいいパパになって欲しいと思う。


もちろんなれるに決まってるけど。


「もう戻ってこないでよ」


出発の朝、強がってそう言ったあたしに、お兄ちゃんは笑った。


「椎名に泣かされたらすぐに言え。顔の骨格、変形させてやる」

「……お兄さん、俺がここにいるの見えてますよね?」


玄関先でのやりとりに苦笑いする樹に、笑うお兄ちゃん。

そんな2人を眺めて……言い忘れていた事を思い出す。


「あ、そうだ。お兄ちゃん。樹ね、お兄ちゃんと同じ会社に入社する事になったから」

「は?」


予想通りびっくりした表情を浮かべたお兄ちゃんに、そのまま続ける。


「樹って、『RBP』の社長の息子で、会長の孫なんだって。あたしもこないだ知って」

「……」


ぽかんとしたまま言葉も出ないお兄ちゃんを見て、樹が気遣うように声をかける。



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