ジュリエットに愛の花束を。


「まだ部署は決まっていませんが、春からよろしくお願いします」

「……社長の息子で、会長の孫……?」

「そう。『樹』って名前もおじいちゃんが付けたんだって。

ほら、おじいちゃん木が好きだってお兄ちゃんも言ってたじゃん」

「……おじいちゃん?」


信じられないって顔をしてあたしを見るお兄ちゃんに、笑顔で返す。


「うん。こないだ会ってご飯ご馳走になったんだけど、呼び方、『おじいちゃん』でいいって言うから」



「ご飯って会長と……?!」

「本当に本当なのか?!」

「そうか、でも……『椎名』って……あー、まさかだよ……」

「瑞希、会長に変な事言わなかっただろうな?!」


とか、ごちゃごちゃうるさいお兄ちゃんをやっとの思いで送り出して、騒がしいお兄ちゃん騒動が、やっと幕を閉じた。


ふぅー……と、息を吐き出して隣に立つ樹を見上げる。

すると、すでにあたしを捕らえていた樹の瞳が、少しだけ意地悪に細められた。


「寂しい?」

「別に」

「素直じゃねぇな」

「本当に今回は寂しくないんだもん。……そんなには」


白状すると、樹は笑ってぽんぽんとあたしの頭を撫でた。

そして。



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