白き砦〈レイオノレー〉
 デュークはフロベールを伴い、失踪した賊たちの後を追って、ルーヴルの裏手の森を全速力で駈けた。

 王宮の中庭の外れで、明らかに近衛銃士たちのものではない馬の蹄の跡を見つけ、二人でここまで追ってきた。

 が、昼なお暗いこの森は、触れ合う葉と葉のささやきが、人や馬のたてる物音をすっかり覆い隠してしまっている。

 仕方なく二人は、踏み荒らされた下生えからたちのぼる青草の匂いだけを頼りに走った。

 が、木立が作り出す自然の道の分岐点に来たところで、はたと二頭は立ち止まった。

 デュークはなぜか急に難しい顔をして、睨むように前方へとまなざしを向けた。

 フロベールは不審に思って尋ねた。

「蹄の跡は右にそれていますが、追われないのですか?」

 賊たちがそちらの方角に逃げていったのは、跡から見ても明らかだ。

 だがデュークはいつまでも立ち止まったまま、道筋の彼方を瞬きもせずに見つめているだけである。

「まさかな……」と、やがてデュークは呟いた。

「それは考え過ぎだ」

 その一言でフロベールは、はっとデュークの懸念に思い当たった。

 彼はたぶん、この森の奥に住むあの貴族のことを考えているのだ。

 国王から贈られた白大理石の優美な城館に住む、あの特別扱いを受けている英国貴族のことを。

「どうされますか?」

と再びフロベールは訊いた。

 王太子の命を狙った賊どもが、その例の貴族と何らかの関わりのある者たちで、
はじめから逃げ込む予定でこの奥へ向かったのだとしたら、
外国貴族の持つ治外法権とやらの前に、デュークは追うのを諦めるのだろうか。

「行ってみよう」とすぐさまデュークは、明快な口調で答えた。

「なんとしても奴らを捉えて、首謀者の名を聞き出さなければな。元を解決しないことには、いつまた同じような事件が起こるとも限らない」

 この若い将軍は、決断をするのも早ければ、行動に移すのも早い。

 答えるやいなや彼は愛馬を鞭打って、賊の逃亡した道筋の先へと駆け出して行った。
< 12 / 30 >

この作品をシェア

pagetop