白き砦〈レイオノレー〉
 この姫君は、昼方、アンリ大王の騎馬像の向こうにちらりとかいま見えた、あの少女で

はないか。夢に出てくるあの美しい女性に生き写しで、吸い込まれそうなスミレ色の瞳を

持った―――

 どうしてあの少女がこの館に……?

 言葉もなく呆然と立ち尽くすデュークを、フリーラインはこれまた無言で見つめてい

た。公爵は相手の驚いたような表情の意味を、胸の内で推し量っているようだった。

 と、執事とおぼしき身なりの男が、突然部屋へ入ってきて、フリーラインに近づき耳打

した。

「王宮より、再三陛下の使者が参っておりますが、いかがなされましょう。陛下におかれ

ましては、今宵の祝典に、ぜひとも公の参賀を仰ぎたいとのことでございますが」

「そのことについては固く辞退申し上げると、王宮へは返書を送っておいたはずだが―

―」

とフリーラインは答えたが、不意に彼は言葉を切って、エレオノールを見返った。

「……だが気が変わった。今宵は喜んで伺わせていただくと伝えよ」

そして部屋の隅に控えている侍従に言った。

「すぐに正装の支度を。そして姫にも夜会に相応しい衣装を用意しておくれ。今宵は二人

で王宮へ伺うことにしたゆえ」

 侍従は深くお辞儀をして、足早に部屋を去っていった。

 エレオノールは、急になにを言い出すのかと呆気にとられたような顔で、フリーラインを見上げた。
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