お家に帰ろう。
小学校の時、明のクラスでは、

「おうちの人の仕事の内容を聞いてくる。」

そんな宿題が出題されていた。


自慢の父親のことを皆に話せる、めったに無いチャンスになると、
その日の食卓にて話題にしては、
必要以上に質問する明だった。


それは、父がまだ子供の頃、
祖父が交通事故で大怪我を負った時のことらしい…

祖父が担ぎ込まれた病院での、
医師の素早い応対と、後に元気に退院した祖父の経過に感銘を受け、医者への憧れを抱いたのだと言う。


もちろん、その時は気が付かなかったことだが、
そんな父親は外科ではなく、内科医だ。


そんなある日のこと、
飼っていたハムスターのモモが、籠小屋の隅で、静かに丸くなっているのに気がついた。


母親は出かけていて、遥も友達と遊び行ってしまい、家には誰もいない。


不安で仕方ない明は、ただハムスターをみつめるしかできずにいる。

そんな時、
やっと帰ってきた将人の姿を見たとたん
急に安心した明は、勝手にあふれ出てくる涙を止めることができず、
学生服を涙で汚してしまったことがあった。


“父親が帰ってきて治療してくれれば、すぐに元気になる!”

そう信じて父の帰りを待つ明が、

「早くお父さん帰ってこないかなぁ」

そう呟くと、

「お父さんは病気を発見して、薬を注射できるけど、手術して治すことは出来ないんだよ。」

将人は口を滑らせた。

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