お家に帰ろう。
「そういったケースはあることだ!早めに帝王切開腹して…じゃないと、ただでさえ妊娠中は進行が早いからな。ただ、彼女の場合は危険だった。それでも彼女は…二度と妊娠出産が無理かも知れないのならばと、泣いて出産を申し出たんだ。」

「どーして止めなかったんだよ!!」

「止めたさ!!」

「!」

「当たり前だろ!…まだ見ぬ子供より、裕子の方がどれだけ大事だったか!でも、その裕子が、泣いて頼むんだよ!これで自分だけが助かっても、私は生きた心地がしないと…」


そして、将人の肩に手を置いて、

「どーしても、自分の生きた証を…おまえと逢いたかったんだよ。」


将人は、そんな父親から目をそらして、斜め上の空をにらみつけた。


「ここからが大事なことだ。いいか?良く聞け!彼女の死は、出産が原因じゃないんだ!」

「え?」

「手術は成功した。通常より早くに誕生させられ、1500グラムにも満たなかった赤ん坊は、今こうして、すくすくと育っているし。彼女の子宮は3分の1残すことができた。」

「じゃあ」

「それからすぐに、転移が見つかった。」

「そんな、」

「なにもかも、発見が遅かったんだ!」

「…」

「俺は医者失格だ!裕子の手術には一切関わってもいないし!…裕子が死んで…幼いおまえが居るというのに、自暴自棄になってな…仕事も手に付かず、どーしようも無い生活をしている俺は、弥生に頼り、優しさにツケこんだ。」

「…」

「最低だった。」

< 95 / 278 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop