彼岸花の咲く頃に
「興醒めだわ」

ひとしきり笑った後、悪狐は吐き捨てるように言う。

「ここらの結界を破って侵入する時は手こずったから、どれほどの稲荷が潜んでいるのかと楽しみにしていたのに。出てきたのがこんな貧弱狐じゃ、殺す気にもならない」

彼女はそれっきり姫羅木さんに興味をなくしたらしく、二度と手を出す事はなかった。

その代わり。

「!」

俺の方に視線を向ける。

「とりあえず稲荷寿司食べ損ねたし、腹が減ったわね…店員さん、一緒に来てもらおうかしら」

「…っ…!」

考えるよりも先に踵を返した。

店の裏手に勝手口がある。

そこから逃げれば…!

しかし走り出すよりも先に。

「うわっ!」

俺の体は、伸びてきた九尾によって絡め取られた。

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