丸腰デパート・イケメン保安課
笙は目を背けた。
直視できないのだ。

どんなに怖かっただろう、悔しかっただろう…考えたら、自然と目を反らしてしまったのだ。

「ごめんな…嫌な事聞いて」
香奈は、涙が溢れる瞳で笙を見上げた。
「必ず犯人捕まえるから!絶対捕まえる!」
「………」

無言の香奈は、笙の言葉にほっとしたのか、静かにうなづいた。
テーブルの上に置かれたコーヒーを手に取り、一口すすった。
落ち着いてきたのだろうか。

「大丈夫!大亀に乗ったつもりでいていいから!」
「大船だろ?!」
更科の訂正に、笙は眉をひそめて舌打ちした。
「わかってないな…浦島太郎のくせに」
「太郎じゃねぇよ!そんな昔話してねぇ!何で東の話は支離滅裂なんだ!」

「……ふっ」
笑い声に、笙と更科は口を閉じた。
香奈が、一瞬だが笑ったのだ。

「……笑われた…なぜ…」
「お前の話が馬鹿だからだよ」
煙草に火を付け、更科は苦笑した。
香奈に、一瞬でも笑う余裕が出てきたならいい。

笙と更科は顔を見合わせて、互いの安堵を確認した。






30分程過ぎた頃、香奈の両親が警察署に来た。
慌てて来たのだろう、母親はエプロンを着けたまま、父親は作業着のままであった。
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