【件名:ゴール裏にいます】

常に権田先輩とももちゃんの事は頭の中にあった。あの二人は今どこにいるのか。アルビレックスユニを着ていたと言うのなら、やはりスタジアムにいるのでは?

分かっている事と言えば、二人でいるらしい事と何かのお祝いをするらしい事だけだ。

僕は何度か権田先輩の携帯を鳴らしてはみたが聞こえてくるのは「お掛けになった電話番号は現在使われておりません――」と言うDoCoMoのインフォメーションだけだった。

どうすれば良いのか。時間だけが過ぎてゆく。


アルビレックスとトリニータの試合開始まであと2時間。
僕と沙希ちゃんはホテルに戻り、スタジアムに出掛ける準備をしてロビーで待ち合わせる事にした。

エレベーターで別れ、部屋の鍵をベルボーイに開錠して貰い、鞄から荷物を引っ張り出していく。

中から青いトリニータユニが出てきた。

僕は少し悩んだが、これをスタジアムまで着て行く事にした。
トリニータサポーターとしてのプライドがそうさせたんだと思う。

(まあタクシーで移動するし、変な事にはならないだろう)

そんな軽い気持ちもあったかも知れない。


着替えを済ませ、部屋を出ようとした時に沙希ちゃんから携帯に着信があった。

「もしもし?名山さん寝ちゃってるみたいなんだけどどうしよう」

僕は部屋まで行く事を伝え電話を切った。

エレベーターで彼女らのいる26階へ。

部屋の前でチャイムを鳴らすと沙希ちゃんが迎え入れてくれた。

中に入ると二つあるベットの窓際の方にここあさんは寝ていた。
ソファ付きのテーブルの上にはウイスキーのミニチュアボトルとグラスが一つ置かれている。

「ここあさん、ここあさん」

僕は彼女の体を揺すり何度か声を掛けたが起きる気配は無かった。

「これはもう駄目かも知れませんね」

「どうするの?一人にして大丈夫?」

「仕方ないですけど――」

と言いかけた時にうわ言のようにここあさんが何かを言った。

「――かないでよ・・私を置いていかないで――」


権田先輩の夢でも見ているのだろうか。
僕はこの言葉を聞いて決心した。

テーブルの上にあったグラスを手に取り洗面所で水を注ぎ、ベットサイドに行くと、彼女の顔にその水を掛けた――。

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