【鬼短2.】鬼売り
もう一つ。
不思議な噂が、板橋家にはありました。
それは、お桐が亡くなった時の事。
筆頭家老を継いだ長男を始め、たくさんの子や孫が、お桐の亡きがらを囲んで嘆いておりましたら
遺体の胸元から、何やら黒い卵のような物がぴょんて飛び出し
驚く一堂の前で、それは
青い目を輝かせ、裂けたような口を青く光らせて、にぃ、と笑いながら
「ああ…これでまた、醜い醜い人間の話をひとつ、蓄えられた…」
と
満足そうに言って
どこかへ飛んで行ったのだとか言うのです。
…その声が
あの鬼売りのそれだったというのは
その場にいた者達にも
死んだお桐にも
もう、知れぬ事でございました。