【鬼短2.】鬼売り
……その後。
お桐は二度と、あの商人に会う事はございませんでした。
皆の祝福のうちに板橋家に嫁ぎ、やがて2男4女の母となりました。
板橋家はやがて
筆頭家老の役を授かり、
実家の渡貫家は、板橋様の跡を引き継いで、加判役家老に。
お桐は
亭主の浮気にも悩まされず
婚家の皆に愛され
たいそう幸せな人生を送ったのだとか。
ただ、時折。
板橋家の侍女衆の間では、
「奥様は、千里眼でもお持ちなのでは」と
不思議な噂がささやかれました。
侍女のどんな小さな失敗も陰口見逃さず、奥様やお子様の愚痴を言った者は、必ずや見つかってお叱りを受けたからでした。
もちろん、お桐の鬼の事など、誰ひとり知る事はありませんでした。