【鬼短2.】鬼売り
そう言ったのは、母の所の古株の侍女でした。
もう一方の人影は、母のように見えました。
(私の話をしている…)
お桐が目を凝らして二人の姿を見つめておりますと、母が微笑んだのが見て取れました。
『もちろん、嬉しいですとも。』
花嫁衣装や結納の反物を、嬉しそうに選んでくれる母。お桐も思わず微笑みました。
(母上…そのように私をお思い下さいましたか。)
が、次の瞬間、母の口から洩れた言葉に、お桐は凍りついてしまいました。
『やっと邪魔なあの子がいなくなるのじゃ…嬉しくないはずがなかろう?』
…侍女が、楽しげに笑います。
『これで若様の世継ぎも安泰ですわ…ほんに良うございましたね、奥方様。』
母も楽しげに笑いました。
『まことに。…お屋形様があの姫をいつまでも手放さぬものだから、はては婿を取らせてお家を継がせるおつもりかと気を揉んだが…
これで私の息子が晴れて総領となった。めでたいことよ。』
悲鳴を上げて、お桐は鬼を目から離しました。
途端に、お寺の風景は消え…目の前には、薄く微笑みをたたえた商人と、土間の黒い土が現れました。
―心臓がばくばくと早鐘のように打っています。
優しい母の酷い言葉を、お桐は信じられませんでした。