スカーレット

「母親だもの。50万くらい面倒見るわよ」

 そう言って母は私の隣に座った。

「ご、ごめんね! できるだけ早く返すから……!」

「いいのよ」

 微笑む母。

 いいわけないのに。

「お父さんが亡くなってから、紀子にはたくさん迷惑かけてきたわ。今のあなたには借りた記憶だってないんだし、これくらい罪滅ぼしさせて」

「そんなの、お母さんは何も悪くないじゃない」

 彼女は首を横に振り、私の手を握った。

「私が店を始めてから、あなたは何でも自分で解決してきた。私と正樹のことを考えて、行きたかった専門学校の進学も諦めたのよ」

 私の知らない、私の過去。

 父が亡くなったことによって、私は夢を諦めていたという。

「だからね、これくらい面倒見させて欲しいの」

「お母さん……」

 優しさに、涙が出た。

 夢を断念した記憶も、お金を借りた記憶も一切ない。

 だけど母の思いが、握られている手から、視線から……いや、全身から伝わってきたのだ。


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