スカーレット

 勝彦は驚いたような顔をする。

「先に、着替えてきていいかな?」

「うん」

 彼がすぐに聞かなかったのは、私の表情から嫌な予感を感じ取ったんだと思う。

 さすがだね。

 寝室に着替えに行った彼を見届けて、私はインスタントのコーヒーを入れた。

 母が私にリンゴジュースを入れてくれたように。

 私は、砂糖とミルク。

 彼は、砂糖だけ。

 飲み方を覚えていて良かった。

「おまたせ」

 部屋着になった彼は、コーヒーを入れる私を後ろから抱きしめる。

 首に唇が触れ、全身に甘さが広がった。

 こんなに愛しい彼に、決心が揺らぐ。

 気付かないふりをしていれば、いつまでもこの関係が続くような気がして。

「かっちゃん、座って」

 カップは勝彦が運んでくれた。

 彼をソファへ座らせて、私は向かいのテレビの前に座る。

 ちょうど、母がしたように。


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