ヤバいくらいに溺れてる
あたしは足を震わせながら、中腰のままユニットバスのほうへ歩いて行った

後ろからくすくすと失笑しているのが聞こえてくると、ぎろりと陽向を睨んでやった

風呂場にあるカーテンレールに引っ掛けてある雑巾に手を伸ばすと、ふうっと息を吐いた

なによ!

年下のくせに、あんなテクを持っているなって卑怯よ

どこで勉強してんのよっ

モデルの世界って、きっと乱れてるのね

乱れて、汚れきってるのよ

だからあんなガキにも、余計なテクニックが身についてるんだわ

ほんと、余計なテクニックよ

なんなのよ、むかつくったらありゃしないわ

「チャック、おろしたままで男に会うの? いくら面倒くさくて、下着をつけていかなくても、背中を丸出しって恥ずかしくない?」

音もなくあたしの背後に立った陽向がジジッとワンピースの背中にあるチャックをゆっくりとあげていく

ゆっくりすぎる上に、首筋にキスを落としてくるヤツの行為のあたしの足の力が一気に抜ける

雑巾を持ったまま、ユニットバスに座りこんだあたしに、陽向は意味ありげな笑みで上から見下ろした

「ほんとにそれで会えるの? 男に会う前から、腰が抜けてんじゃ…なにもできないんじゃない?」

くすくすと笑いながら、陽向がユニットバスを出ていく

「あんの野郎っ! あたしを馬鹿にしてえ。絶対に復讐してやる」

あたしはユニットバスの床を雑巾でバシバシと叩いた

「年下のくせにっ。その化けの皮を剥がして、素顔を見てやるんだから。あたしを馬鹿にした罪、いつか償わせてやるんだから…覚えてろ。てか、今すぐ、償わせてやる」

両手をついて立ち上がると、あたしは力の入らない足で部屋に戻った

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