ヤバいくらいに溺れてる
過去の男と未来のある男
『すみませんでした! もう大丈夫ですから』

陽向のもともとのマネが、あたしに何度も頭を下げながら言っていた

退院してきたばかりのマネージャー、まだ顔や身体にガーゼや包帯がしてある

無理して仕事復帰することないのにってあたしは思うけれど、きっとマネはそう思ってないんだろうなあ

仕事に穴をあけてしまった責任と、不注意とはいえ、アパートを火事にしてしまった罪悪感で、きっと心が激しく痛いのだろう

あたしはまたいつものバイトに戻った

事務所で、コピーをとって、お茶を入れて、ときどき茶菓子を買いに外に出る

以前と違うのは、まだあたしのアパートに陽向が居候しているってくらいかなあ

なんか別に違和感を感じなくなってきたんだよね

陽向がいる生活があたしの中で普通になってきてる

不思議なのは、セックスをもうしばらくしていないのに、身体が軽いってところかな

心がさびしいと思わないからかな?

身体が無性につらくなるってことがない

毎日、顔を合わせれば喧嘩っていう生活も、悪いものではないのかもしれないね

喧嘩して、気持ちを吐き出しているせいか、ストレスもあまり感じてない

誰かを一緒に生活するって、息苦しくて嫌なものばかりだと思ってたけれど、意外と楽しくて、ストレス発散になるのかもしれない

あたしは社長からもらったお金が入っている鞄をぶんぶんと振りまわしながら、スーパーの敷地内に入って行こうとした

「海堂? 海堂 心愛だろ」

男の低い声を聞いて、あたしは足を止めると振り返った

「芝原君?」

呼びとめた男の顔を見たあたしの顔の筋肉が一瞬にして、凍りついた

初恋の相手 兼 あたしを強姦して男だ

見たくもない顔なのに、忘れらない顔でもある

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