ヤバいくらいに溺れてる
「な…なによ」

「そう警戒すんなって。何、買い物?」

いかにも大学生です!っていう感じの芝原宗太があたしに近づいてくる

あたしは後退していった

「そうそう、買い物。急いでるから」

早口で言うと、あたしは背を向けて走り出そうとした

「待てって。そう怯えるなって」

「無理、むりだから! もう、絶対無理。あんたの顔を見るのが無理」

芝原があたしの手首をつかむと、「ごめん」と小さな声で謝った

「は?」

「だからごめんって。中学のとき、俺、海堂にひどいことしただろ。ずっと謝りたくて」

「え?」

あたしはゆっくりと振り返ると、芝原の顔を見た

眉尻を下にして、申し訳なさそうな表情をしている

「俺さ…。ほんとは海堂が好きだったんだ。でもクラスの奴に、チャカされて。強がって…海堂を傷つけた」

「はあ」

「告白されたときは、すんげえ嬉しかったんだ。でも教卓にダチが隠れてて、様子を見てたんだよ。んで……」

「強姦したと」

「ごめん。マジ、ごめん」

「最低」

「うん、わかってる」

「そのあと、あたしがどんな辛い思いしたか、わかってるわけ? どんな人生になったか……って言っても無駄か。手、離して」

芝原に掴まれている手首を、あたしは上下に振った

芝原が首を横に振って、手を離してくれない

「教えてよ。どんな人生になったか。俺、謝りたいんだ。んで、もう一度チャンスが欲しい。海堂に許してもらいたい」

許すってなに?

強姦されたことを、許せって言うの?

あたしが許せると思うわけ?

強姦したヤツに、チャンスってなによ

何のチャンスよ

恋のチャンス?

馬鹿、言わないでよ

誰が好きになるかっつうの

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