あたしが眠りにつく前に
「俺だってボランティアじゃないんですよ。お代はしっかり頂きます。こっちも生活かかってますからね。材料費と買い物と調理の手間費も合わせて、この値段なら安い方でしょう。シンプルですが、味は悪くはありません。食堂と比べてください」
帆高の言うことは極めて正論である。天国から地獄。ぐぬぬ、と先輩が呻く傍らで、帆高は加減を見ながらボールの中身を箸で混ぜる。
彼は一切自炊せず、食堂や外食、コンビニ弁当で食事を済ませていることを知っている。計画性も無く、行き当たりばったりな性格が招いた当然の結果。
「…なあ、せめて半額に」
「お断りします」
少し冷めてきたところで、こねていく。…よし、固さも量もこんなものだろうか。
「…先輩に向かって、良い度胸だな」
「お褒め頂きまして」
「褒めてねえよ。なあ、せめて後払いにしてくれよ。給料日まであと1週間、毎食コンビニのパン1個で持たせなきゃなんないぐらいに追い込まれてんだよ! 絶対返すから!!」
「半年前、俺から5000円借りましたよね。それから3ヶ月後に俺が催促するまで、知らん振りで。…似たような被害話は、あちこちで聞いてます。お金にルーズな方のようですから、信用できかねますね。1月毎に5割増の利子付きの借用書書いてもらいますよ」
この世の終わりを迎えたような顔で項垂れる彼に、帆高は作業する手を止めた。彼もまた、悪い人間ではない。後輩の分際で挑発する言葉をわざとぶつけても、彼は激昂しなければ胸倉を掴むなどの脅迫行為もしなかった。
逆に下手に出て、頼み込んで。頼みごとをする立場なら当然だが、年下に向けてはなかなか難しい。入寮した直後に寮内のルールなどを教えてくれ、今でも気さくに話しかけてきてくれる。感謝しているし、恩も感じている。
だから、これぐらいなら。我ながら、甘いとは思う。
「…分かりました。今日だけですが、特別にタダにしてもいいですよ。その代わり、作るの手伝ってください。まずは、皮をお願いしますね」
「…お前、本気で言ってんの?」
綿棒とまな板をスタンバイされ、彼の口元がヒクヒクと引きつった。こちらとしては100歩譲った妥協案だ。これ以上は譲らない。
「‘働かざるもの食うべからず’と言うでしょう。皮ができたら、包んでくださいね。この量だと50個は軽く越えるでしょうか。さて、どうします? 俺はどちらでも構いませんが」
「先輩をこき使うなんざ、ホントに良い根性してるよな。…分かった、乗るぜ。でも料理なんてしたことないから、出来がひどくても文句言うなよ」
「ありがとうございます。形はどうあれ、味に影響しませんよ」
見た目にまでは、こだわらない。作ってもらう前に1、2個見本を作って真似てもらう。あまりにも見るに耐えなければ、作り直してもらうが。
帆高の言うことは極めて正論である。天国から地獄。ぐぬぬ、と先輩が呻く傍らで、帆高は加減を見ながらボールの中身を箸で混ぜる。
彼は一切自炊せず、食堂や外食、コンビニ弁当で食事を済ませていることを知っている。計画性も無く、行き当たりばったりな性格が招いた当然の結果。
「…なあ、せめて半額に」
「お断りします」
少し冷めてきたところで、こねていく。…よし、固さも量もこんなものだろうか。
「…先輩に向かって、良い度胸だな」
「お褒め頂きまして」
「褒めてねえよ。なあ、せめて後払いにしてくれよ。給料日まであと1週間、毎食コンビニのパン1個で持たせなきゃなんないぐらいに追い込まれてんだよ! 絶対返すから!!」
「半年前、俺から5000円借りましたよね。それから3ヶ月後に俺が催促するまで、知らん振りで。…似たような被害話は、あちこちで聞いてます。お金にルーズな方のようですから、信用できかねますね。1月毎に5割増の利子付きの借用書書いてもらいますよ」
この世の終わりを迎えたような顔で項垂れる彼に、帆高は作業する手を止めた。彼もまた、悪い人間ではない。後輩の分際で挑発する言葉をわざとぶつけても、彼は激昂しなければ胸倉を掴むなどの脅迫行為もしなかった。
逆に下手に出て、頼み込んで。頼みごとをする立場なら当然だが、年下に向けてはなかなか難しい。入寮した直後に寮内のルールなどを教えてくれ、今でも気さくに話しかけてきてくれる。感謝しているし、恩も感じている。
だから、これぐらいなら。我ながら、甘いとは思う。
「…分かりました。今日だけですが、特別にタダにしてもいいですよ。その代わり、作るの手伝ってください。まずは、皮をお願いしますね」
「…お前、本気で言ってんの?」
綿棒とまな板をスタンバイされ、彼の口元がヒクヒクと引きつった。こちらとしては100歩譲った妥協案だ。これ以上は譲らない。
「‘働かざるもの食うべからず’と言うでしょう。皮ができたら、包んでくださいね。この量だと50個は軽く越えるでしょうか。さて、どうします? 俺はどちらでも構いませんが」
「先輩をこき使うなんざ、ホントに良い根性してるよな。…分かった、乗るぜ。でも料理なんてしたことないから、出来がひどくても文句言うなよ」
「ありがとうございます。形はどうあれ、味に影響しませんよ」
見た目にまでは、こだわらない。作ってもらう前に1、2個見本を作って真似てもらう。あまりにも見るに耐えなければ、作り直してもらうが。