とりまー紀文
①貯金箱「ナナちゃん」初シャンプーの巻  ミニチュア・ダックスフンド
 うちの店のお隣りさん、南側に面した日当たりのいい廊下がナナちゃんの部屋である。
毎日顔をあわすのだが決まってすごい勢いで吠えてくる。3ヶ月たっても相変わらずの吠えっぷりだった。
 12月 ついにナナちゃんのトリミング予約が入った。
当日 店に入りたがらないナナちゃんを飼い主さんは無理やり引っ張って入ってきた。
あれだけ吠える犬、臆病に違いない。咬まれるかもしれない。慎重にと思い、先に飼主さんとじっくりお話した後、ナナちゃんをみた。
床の上のナナちゃんは、ずっと一点を見つめ、びくともしない。まるで置物のようだ。カチコチに固まっていて、片手でも持てそうだ。ワンともいわない。咬む気配もないので先に洗う事にした。
お風呂に入ったナナちゃんは、何をしても動かず固まっている…。今までこんなに洗いやすいワンがいただろうか。
次はドライヤーで乾かす…。じっと一点を見つめ立っている。耳そうじ、爪きり、バリカン…すごい まだ動かない。ハサミで足まわりを整え、赤いふわふわリボンをつけ、トリミング台から床におろした…。しかし、そこからも動かない。
急いでお隣りへ連れていき玄関におろした途端、ワンワンいいながら勢いよく走り回った。ゼンマイ仕掛けのおもちゃのようだった。
 2回目からは動くようになってしまった。いつのまにか私を見ても吠えなくなっていた。
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